夢を食べるといわれるバク(英語ではtapir)。いや、普通に考えて食べないでしょ。そりゃ食べた方が面白いけど、なんで夢食べることになってんの?これまで「バク」が夢を食べるという伝説に何の疑問を持ったことも無かったが、気になりだすと止まらない。
夢を食べる「獏」と食べない動物は別物だった
結論から言っちゃったが、夢を食べるといわれる「獏」は、中国の伝説上の生物だった。古い書物によると、形はクマ、鼻はゾウ、目はサイ、尾はウシ、脚はトラに似て、その皮を敷いて寝ると邪気を払うとされていたそうだ。それが何故「夢を食べる」ことになったかというと、日本に伝わった後に色んな勘違いとかがあって、日本では「悪夢を食べる」動物ということになったらしい。室町時代末期には既に「獏は悪夢を食べる」というのが確立していた。
動物の方の実際
それで、動物園にいる「バク」は、哺乳類なので一応夢は食べない。哺乳類の「バク」はその伝説上の「獏」と似ているからこの名前がついたと言われている。確かに、脚はトラじゃない様な気がするがそれ以外は似ていると言えそうだ。ただ、古代中国にはバクが生息していたことが遺跡から推測されており、その後絶滅したために、バクが伝説上の動物「獏」となったという説もある。つまり、精一杯分かりやすくまとめると、「バク」は「獏」に似ているから「バク」という名になったけど、元々「獏」は「バク」だったのかも。ということなのだ。
生態
バクが夢を食べないことはわかったが、ではどの辺でどんな暮らしているのか。奇蹄目バク科に分類される哺乳類で、東南アジア、北アメリカ南部から南アメリカにかけて5種が分布している。バクの仲間が登場したのは始新世で、現存するバクは1200万年以上前からほぼ同じ姿で現在まで生き残っていると考えられている。現存している有蹄類の中ではもっとも原始的な形態であり、あまりメジャーじゃないが、「生きた化石」なのである。
種類
思い浮かぶのは白いでっかいへそまで隠れるパンツ履いたみたいな生き物だが、実はパンツ履いていないバクもいる。現存する仲間は5種類で、ベアードバク、マレーバク、ヤマバク、アメリカバクの他、もう一種類はアマゾンで新種として認められた「Tapirus kabomani」だが、まだ和名がついていないようである。一番馴染みのある白いパンツは「マレーバク」で、東南アジアに生息する。その他は全てアメリカ大陸に生息し、色味もマレーバクと違い、茶系や暗褐色の地味系である。赤ちゃんはウリ坊柄で、かわいい。6ヶ月ほどで大人と同じ色になる。
大きさ
体長2m程度、体重は150~300kg程マレーバクとベアードバクは大型で、300kgを超えるものもある。
アメリカバクやヤマバクはそれに比べると小型。
特徴
奇蹄目といいながらも、前肢には4本、後肢には3本の指がある。特徴である上唇が一緒に伸びた長い鼻を器用に動かして葉や果実などの植物を食べる。
歩きながら糞をし、植物の種をまき散らしてくれるため、「森の庭師」と呼ばれている。動きはゆっくりで性格は穏やかで顔は面白い。草食だけど、発達した犬歯を持つ。森林地帯に生息し、水辺で多く過ごす。水に潜るのが好きで、鼻をシュノーケルのよう使用する。天敵に襲われそうになるとすかさず水中に逃げる。天敵は、アメリカバクはピューマやジャガー、マレーバクはトラやヒョウなど、生息地域の肉食動物。夜行性で、単独で生活する。マレーバクのあの目立ちそうな色も、夜の森林では保護色になるらしい。
寿命
バクの寿命は約30年。
ペットにできる?
マレーバクはワシントン条約下にあるため、個人でペットとすることはできません。
絶滅危惧種だった
バクは、最近種として認められたTapirus kabomaniを除き、どの種類もIUCN(国際自然保護連合)で絶滅危惧種に指定されている。マレーバクの野生での生存数はおよそ1,000頭と推定されているそうだ。要因は地域によっても異なるが、食用、ペット需要のための狩猟や密猟の他、一番の原因は森林の開発による生息地の破壊である。また、生息地であるニカラグアの専門家によると、バクは400日と妊娠期間が長い上に、一回に一頭しか生まないのも個体数の減少につながっているそうだ。
見ることのできる動物園は?
上野動物園や多摩動物公園、東武動物公園、よこはま動物園ズーラシア、東山動植物園など、多くの動物園でマレーバクを飼育しています。ぜひ確認して見に行きましょう。
まとめ
バクは獏とは違って、夢でなくて草を食べる、絶滅の危機に直面する生き物だった。今もどんどん数が減り続けている。このまま哺乳類のバクまで、伝説の生き物にならないようにしなければいけない。