冬のライチョウ(英語ではRock Ptarmigan)はすごい。雪山での冬の越し方が独創的すぎる。そんなライチョウは今、温暖化などの影響で絶滅危惧種である。新たな天敵による追い打ちで危機的状況を救う作戦とは?
生態と特徴

キジ目キジ科に分類されています。氷河期の生き残りです。2〜3万年前の氷河期に北半球の寒い地域から日本にやってきて、本州の高山に取り残されたのが日本のライチョウであり、「生きた化石」(氷河期の遺存種)と呼ばれる。世界には北極を中心にライチョウ類が18種いるといわれており、日本に生息する「ニホンライチョウ」は世界で最南端の亜種である。日本には本州の高山に生息するニホンライチョウの他、北海道には森林性のエゾライチョウも生息している。雷鳥と呼ばれる神の使いの鳥です。日本では古来「らいの鳥」といわれていたが、江戸時代に「雷鳥」と表される様になり、火難、雷難よけの信仰の対象となっていた。天敵である猛禽類などから身を守るため、雷が鳴る様な天候の時に出てくるのが由来という説がある。
大きさ

ライチョウの体長は37cmほどで、ウズラの様な丸い体型をしている。寒いところで暮らすので、体温低下を防ぐために、体積に対して表面積が少なくなるエコ体型になっている。
うさぎのような足を持つ鳥です。ライチョウの学名はLagopus mutus(ラゴプスムトゥス)といい「Lagopus」は「ウサギの足」、「mutus」は「無声の」という意味を持つ。足は、爪以外、指までモコモコの羽毛に覆われていることと、低い声で、あまり鳴かないことが名前の由来らしい。指までの羽毛は、寒さ対策の他、雪の上を歩きやすくする役目もある。
餌
主食は植物。実や花、芽だけでなく、葉や茎、種まで餌として食べる。高山で食べものが限られるせいか、食べる植物の部位や種類が多岐にわたる。春から夏には昆虫なども食べる。
鳴き声
ライチョウの鳴き声は、オスはダミ声で「ガーギー」、メスは「クックッ」と鳴く。
苔むした岩の上に登って、雪山を眺めています。鳥は春になると鳴き始めることが多いですね。
季節によって色が変わる

ライチョウは夏と冬で全く異なる色になるのが大きな特徴であり、時期ごとの保護色になっている。雄は繁殖期に雌よりも黒っぽい色になるがその他の時期は雌と大きくは変わらない。夏は黒褐色で、岩や小石と見分けがつきにくい色になり、冬は雪の上で保護色となる様、純白の羽毛に生え変わる。羽毛は、空気をたくさん含むことができる防寒仕様になっていて、冬は一層密度が高くなり、体温を逃さない様になっている。冬仕様にふっくらした純白の羽毛のライチョウは餅のように丸く、和菓子屋に並んでいても全く違和感を感じないレベルである。
冬の省エネ生活
ライチョウは冬、雪を掘ってその中に潜って暖をとる。風で運ばれてきた雪で完全に埋まってしまうと、苦しくなるのか顔だけ出してくる。雪面から顔だけ出ているライチョウときたら、超かわいい。高山が雪で覆われる冬は、あまり動かない。朝の4時頃に餌場にやってきて、朝食を食べたあとは、木の根元に雪穴を掘って休み、たまにちょっと葉を食べてはまた休む。という感じでほとんど動かなくなり、夕方にはねぐらに戻る。見習うべき徹底した省エネ生活なのである。
オスの求愛とモテる男の条件

オスは繁殖期になると、クジャクの様に羽を広げてメスに求愛行動をする。モテる男の必須アイテムは、目の上にある赤いつけまつ毛の様な肉冠(にっかん)である。繁殖期にツガイになれなかったアブレ雄というのが出てくるのだが、アブレ雄の肉冠は貧弱らしい。そしてアブレ雄は、つがいのナワバリに侵入しようとしては追い出され、3〜4個体のモテない男同士でどこかのナワバリの隅で見つからないようにひっそり集団を作っていることもあるらしく、他人事ながら同情を覚える。また、ライチョウは一度つがいになると、どちらかが死ぬまで毎年同じつがいが同じ場所になわばりを作るという。ぜひ見習いたいものだ。
なわばり
3月下旬から4月頃になると、オスのライチョウはなわばりを作る。通常ライチョウは一夫一妻で、そのなわばりでつがいになったメスは産卵、子育てをし、オスは岩や木の上から別のオスが来ないか見張りを続ける。別のオスの侵入があると、威嚇して完全に追い払うまでしつこく追いかけ、激しい空中戦になることもある。これはヒナが孵化するまで続く。
産卵と子育て

ライチョウの巣はなわばり内のハイマツの中に作られ、6月中旬から下旬にかけて、5~6個程度の卵を産む。卵は4〜5cmくらいの大きさのまだら模様で、1日にひとつくらいのペースで順番に産卵をしている様子である。産卵後、22〜23日で孵化するが、卵を温めるのも子育てもメスだけが行い、オスは巣立ち後一週間程度でなわばりを解消する。
母親が子を守るためにする意外な行動

ライチョウの雛は、生まれた時点で足まで羽毛に包まれており、母親の腹の下で羽毛が乾いた頃には歩き出し、巣立ちを行う。その頃はまだピヨピヨとかわいらしい声で鳴く。まだ体温調整ができないため、5分もするとまた母鳥の腹の下に潜り込み、それを繰り返しながら自力で採食をし、その後巣に戻ることはない。
雛たちの天敵

10〜11月には母鳥と同じくらいの大きさになっていて、独立をする。まだその頃は顔に幼さを残し、鳴き声もピヨピヨのままである。ただ、それまでには天敵による捕食などでかなり数は減っている。母鳥は、捕食者からヒナを守るために、翼をダラリと下げ、自分が傷ついて弱っている振りををしてヒナから注意を逸らす行動をする。これは地上に巣を作る鳥に見られらることのある行動である。
生息地と減少する生存数
これから、生息している場所や、生息数が減少する理由などについて調べていきます。
生息地

ライチョウは本州中部の高山で標高2,200~2,400m以上のハイマツ林帯や岩石帯に生息する。頸城山塊、北アルプス、乗鞍岳、御嶽山、南アルプスに分布している。留鳥(年間を通して同じ場所に生息する鳥)であり、一年中高山で過ごす。
絶滅の危機
ライチョウは1980年代には約3,000羽と推定されたが、2016年には1,600〜1,700羽に減少したと推定されており、環境省レッドリストの絶滅危惧ⅠB類に分類されている。
生息数減少の要因
ライチョウを絶滅の危機に追いやる原因は、環境省によると、
・捕食者となり得る種の分布拡大による影響(キツネ、カラス等)
出典:環境省
・従来生息していなかった種(ニホンジカ、ニホンザル等)が侵入し、高山植生が採食されることによる生息環境の劣化
・山岳環境の汚染に起因する感染症の原因菌等の侵入
・登山客等の増加に伴う攪乱
・気候変動による営巣環境・植生等への影響
などがあげられ、こちらも捕食以前に深刻な問題だ。環境問題も影響している。ライチョウの生息地である県などは独自に調査や登山者などへの啓発活動など、生息環境の維持を図っている。トキは、一旦、野生絶滅してしまいました。
人工飼育の開始
ライチョウのために生息地を国立公園などに指定するなどの取り組みを行っている。絶滅の回避のため、2015年に動物園などと協力し「人工飼育」を開始した。安全な施設で飼育、繁殖をすることにより絶滅を回避する方法であるが、その後増やした生き物を生息地に戻す「野生復帰」の取り組みが行われることがある。協力する動物園である富山市ファミリーパークや恩賜上野動物園では、まずは比較的生息数が安定している地域から採卵し、2015年から人工飼育に取り組んでいる。
動物園で見れる?

尚、上野動物園ではノルウェーから譲り受けた、スバールバルライチョウの繁殖に成功し、他の施設でも展示飼育を行っているので、ライチョウを見てみたい場合は、高山に行って生息域を荒らすよりも、動物園でそちらを見る方がよさそうだ。他に、富山市ファミリーパークや、いしかわ動物園、那須どうぶつ王国、大町山岳博物館などで見ることができます。
ペットにできる?
ライチョウは国の特別天然記念物に指定されているため、個人でペットにはできません。また、動物園でもライチョウの飼育には苦労しており、個人では難しいです。
まとめ
防寒対策に優れた寒冷地の鳥、ライチョウは、環境問題などのため、絶滅の危機に直面しながらも今も高山で氷河期から変わらぬ暮らしをしている。どうか、トキの二の舞にならずにその種をつないで欲しい。