みなさんは、フグという魚は知っていますよね?刺身で食べたり、鍋にしたり、唐揚げにしたりと、とても美味しく食べられる魚なのですが、一方でその体や内臓には、テトロドトキシンという猛毒を持っています。だから、フグを調理する為には専用の免許が必要になり、その取り扱いもすごく厳重に管理されています。ちなみに僕はフグについての講習をしっかりと受け、実技試験をパスし、フグの取扱い免許を持っています!!でも、免許を持たない素人の料理人や釣り人が自分で調理したフグの毒に当たって食中毒を起こした~なんてニュースをときどき耳にしますよね。なんて命知らずな人たちなのでしょうか・・・。しかし、日本近海にはこのフグよりももっと強力な毒を持つ魚がいるんです!しかも・・・こともあろうにその魚、普通に市場に並んでいるどころか、取り扱うのに免許も資格も必要ないですし、販売の規制もありません。信じられないですよね・・・。そんな恐怖の魚の名前は・・・「アオブダイ」(Scaras ovifrons)。別名はイブラチャー。今回はそんな、あまり知られていないけど実はとっても危険な魚の毒性の実態や、生態についてリサーチしました。
本当に毒魚なの?

- 普通に市場で買える魚に毒があるなんて、何かの間違いでは?
- ただ単純に食べ過ぎてお腹を壊しただけなんじゃ?
そう思う人、多いと思います。けれど、この魚を食べて食中毒になり、死亡した例(1953~2012年までに8例)が報告されていて、含まれている毒素も解明されています。その毒素は、「パリトキシン様毒素」と呼ばれ、かの有名なフグ毒「テトロドトキシン」よりも強力なのです。実際、厚生労働省のウェブサイトに、パリトキシンを含む魚としてアオブダイの名が挙がっており、これまでの中毒発生状況が記されているのです。しかもそのデータによると、なんと1953年以降2015年までにアオブダイによる食中毒患者が126人もいたことが分かります。そしてこの126人のうち8人が亡くなっているのです。食べて死亡する確率 約6.3%の魚・・・。この確率が高いと思うか、低いと思うかは人それぞれですが、それでもアオブダイが毒魚であることは、もう疑いようがないですね。
食べられる?食べられない?

アオブダイに毒があるのは、上述した通りなのでもう分かっていただけたと思います。じゃあ、どうしてみんな、そんな毒魚を食べているのでしょうか?「食べられないんじゃないの?」と、思いがちですが、実は全てがそうではないのです。

どういうことかと言うと、アオブダイに含まれている毒の量や場所は個体によって違っていて、食べても問題ないレベルの量だったり、ほとんど無毒の個体も多いのです。また毒は基本的に肝臓や消化器官などの内臓に蓄積され、魚の肉や皮には含まれていない方が圧倒的に多いのです。魚を調理する際に内臓は捨ててしまえばいいという訳なんですね。なので、アオブダイは釣りでも比較的頻繁に釣れる魚で、釣り人の中には実際に自分で捌いて食べたことがある方もいるはずです。ただ、それでも絶対に大丈夫だという訳ではないです。なぜなら、このパリトキシンという毒素は稀に魚肉部分にも含まれるのと、この毒が水溶性であり、加熱調理によって分解されないためです。例えば、内臓を取り除かずに煮付けにすると、毒素は煮汁に溶け出すので、たとえ内臓を食べなかったとしても、毒素が含まれている煮汁と一緒に食べることになるのです。なので、このアオブダイをどうしても食べたい場合は、魚を捌く段階でしっかりと内臓を除いて、そしてある程度覚悟を決めて食べるべきだということですね。まぁ、結論を言うと、食べられない訳ではないです。僕は食べませんがね。皆さんにも、できることなら食べないことをお勧めします。命は大切に。
フグ毒より強力!パリトキシン様毒素とは?

では、このアオブダイが持っているパリトキシン様毒素って、いったいどんな毒なのかを紹介しましょう。パリトキシンとは、海産毒素の一種で、その毒性は海産毒素の中でも2番目に強力です。自然界にはヘビやサソリ、フグなど毒を持つ生物は多くいますが、そのような他の生物の毒と比べても桁違いに強力な猛毒です。この毒素は加熱しても、変性や分解はしないので、毒性は失われません。要するに、焼こうが煮ようが油で揚げようが関係ない!ということです。この点はフグ毒のテトロドトキシンと同じですね。
パリトキシンの症状
中毒症状としては、食べてから3~36時間後に筋肉痛、身体の麻痺や痺れを起し、重症化すると呼吸困難、歩行困難、不整脈、腎障害となります。人の環状動脈を極度に収縮させ、死に至ることもあります。死ななくても、回復するには数日から数週間必要なようです。ちなみに、解毒方法は現在のところ見つかっていません。今後見つかるのかは、僕には分かりません。パリトキシンは海の中に棲む植物性プランクトン(渦鞭毛藻類の一種)によって作り出されます。その植物性プランクトンと共生し、体に毒素を持っているスナギンチャクという生物をエサにしているのが、アオブダイなのです。他にもパリトキシン様毒素を持つ魚は、ハコフグやウミスズメ(鳥ではなく魚です)、ソウシハギなどがいます。
どんな魚?

さて、ここまではアオブダイという魚の危険性と、その原因となっている毒素「パリトキシン」について長々と紹介してきました。でも実際にそんな魚見たことも聞いたことも無かったし、もし市場で売っていてもわかんないよ~という人のために、詳しく見ていきましょう。
生態は?

アオブダイとは、ブダイ科の魚の仲間で、温帯~熱帯域に生息する大型の魚です。日本近海でいうと、太平洋側では東京湾以南、日本海側では朝鮮半島以南から東シナ海、フィリピン沖までの広範囲に棲んでいます。比較的温かく浅い海の岩礁やサンゴ礁を好み、釣り人や漁師によって頻繁に漁獲され、市場や食卓に並んでしまうようですね。体の色は名前にあるように青色で、正直言って僕には全然美味しそうに見えません(笑)。今までこの魚を見たことが無く、今回初めてアオブダイという名前を聞く人はこう思うのでは?(あぁ、~ダイって名前だから、きっと鯛に似た魚なんだな)。とんでもない!こちら↓がその魚ですが、

とても鯛とは程遠い姿をした魚ですよね。そしてこのアオブダイ、魚なのになんと嘴を持っているのです。「鳥やん!」「オウムか!?」誰もがそう突っ込みたくなるような、見事な嘴です。これを見たら、この魚に「~ダイ」なんて名前つけたの誰やねん!?と思うに決まってます。しかしご安心下さい!そんなあなたの不満を解消してくれるのが、このブダイ科の魚の英名。「Parrotfish(パロットフィッシュ)」パロットは鳥類のオウムのことです。あの、人の言葉なんかを真似する鳥ですね。そしてフィッシュは魚。つまり、オウム魚という意味です。まさに、適格な名前だと思います。ちなみに、今回ターゲットのアオブダイの英名がこちら、「Knobsnout parrotfish(ノブズナゥト パロットフィッシュ)」ブルーパロットフィッシュじゃないのかよ。と、思わず考えてしまいました。
餌は何を食べてる?

はい、そしてこの特徴的な口で何を食べているのか、気になりますよね?アオブダイは海中の岩などに付着している藻類や、エビ・カニなどの甲殻類、貝類、いろんなものを餌として食べるようです。そして、ブダイの仲間たちはその食事方法もなかなか特徴的で、海底の岩やサンゴに付いている藻類を、あの鋭い嘴を使ってかじり取って食べるのです。
この様子をネット上の動画で見ると、なかなか獰猛な魚に見えてきますね。あの口で指を噛まれたら、なんて想像したくないですね・・・。そして、この食事の時に、猛毒を体内に含むスナギンチャクを食べるのでしょう。そのエサの毒がまたアオブダイの体内に蓄積され、それを私たち人間が食べることで食中毒となるのです。しかし、毒がエサ由来であるということは、毒を持たないエサばかりを食べたアオブダイは毒化しないのです。これが先ほど紹介した、毒を持つ個体と持たない個体がいるカラクリです。このカラクリはフグも同様で、「養殖のフグには毒が無い」と世間で言われているのはこのためです。養殖業者さんの使っているエサには毒素が含まれていないですからね。
フグは養殖もダメって知ってた?
た・だ・し!養殖のフグだからと言って全てが大丈夫なわけではありません。自然の海の中に生け簀や網の囲いを作って、そこで養殖しているものや、屋内水槽で飼育していても、天然の海水を使っている場合は、毒を持ったプランクトンが入り込み、それを食べていないと言い切れないからです。なので、本当に100%安心して食べられる無毒のフグは、卵の段階から出荷までを、人工海水が入った水槽で育成された、完全養殖のフグだけです。この事実を知らず、養殖物だからと安易に調理し、毒にやられてメディアに取り上げられる可哀想な大人たちが今までにどれほどいたことか・・・。なので、皆さんの周りにも「養殖のフグには毒がないから大丈夫~」と言っている人がいれば、真実を知っているかを確認してあげて、知っていなければ是非教えてあげましょう。
養殖は食べれるの?

ところで皆さん、ここらで気が付いたのではないですか??そうです、いつの日かアオブダイも毒のないエサで完全養殖されるようになれば、なんの問題もなく食べられるのです。まぁ、水産資源としてあまり価値の高くない魚を、お金をかけて完全養殖しようという変わり者の業者さんがいらっしゃればの話ですが・・・。それにしても、これらの魚たちは猛毒を体に溜め込んでいるのに、どうして平気なのでしょうか?人間も食べた毒を内臓に溜め込んで平気なら、アオブダイはおろかフグだって食べ放題なのに。と言うことで、今回皆さんに絶対に覚えておいてほしいのはこの3点!
- アオブダイは猛毒「パリトキシン様毒素」を持っている毒魚である。
- そしてその毒は加熱調理しても無くならず、解毒方法も(今のところ)ない。
- 万が一食中毒を起こした場合、命に係わることもある。
絶対に忘れないようにしましょう!!そして、おまけとして、
- すべてに毒が有るわけではなく、食べられるものもある。
- いつか完全養殖されるようになれば、安心して食べられる。
そんな「いつか」はおそらく来ませんが(笑)。
水族館で見れる?

サンシャイン水族館や美ら海水族館、名古屋港水族館、八景島シーパラダイスなどでアオブダイを飼育していて、見ることができます。ぜひお近くにお立ち寄りの際は、見に行きましょう。
ペットにできる?
アオブダイは熱帯魚です。実際に海水の水槽で作ったアクアリウムでペットとしている方はいます。しかし、厚生労働省が販売の自粛を要請しているため、ペットショップでは入手困難でしょう。
まとめ
アオブダイの持っている毒はパトリキシンで、フグの持っている毒より強力でした。また、餌を管理して完全養殖だと食べることができるけれども、まだ完全養殖飼育しているところはなさそうでした。日本各地の水族館で飼育しているので、ぜひ見に行きましょう。