皆さんは、「毒のある魚」について、普段どれくらい意識しているでしょうか?最近は、食の安全性がメディアで大きく取り上げられるようになってきています。仕事として食品に携わる人は当然のことながら、一般の人たちも、食の安全性に対する意識が高くなってきました。しかし、残念ながら、行政や自治体がどれだけ注意を促しても、不注意による食中毒が後を絶ちません。また、食べてはいけない物を、それを食べてはいけない物だと知らずに食べてしまう人もいます。特に、有毒なキノコ類や魚介類を、専門知識の無い素人が調理して食べてしまうことが多いです。そこには、有毒な物を食べる事への恐怖感の無さや、そもそもそれが有毒な物と分からない知識の乏しさが原因なのではないかと思います。そこで今回は、最近、築地市場での誤販売で特に話題になった有毒魚「バラハタ」の持つ、「シガテラ毒」について、詳しく見ていきます。
シガテラ毒とは?

まず、今回注目する「シガテラ毒」とはいったい何か?シガテラ毒とは、もともとは熱帯の海に生息する植物性プランクトンである「渦鞭毛藻類」の体内で生産される毒素の総称です。シガテラ毒素は現在のところ20種類以上が確認されていますが、どれも加熱による変性や分解はしません。したがって、もしこの毒素を含む食品を食べようと思い、「加熱調理しているから大丈夫だ~。」というのは大きな間違いです。煮ても焼いても揚げてもダメだという事です。シガテラ毒は、細胞膜上にあるナトリウムチャンネルに作用し、異常を起させます。ナトリウムチャンネルは、生物の感覚や神経の伝達に関与するもので、ここが正常に機能しないと、身体は思うように動かなかったり、感覚が麻痺します。なので、このシガテラ毒素による中毒症状の例として、
- 吐き気、下痢、腹痛などの、
- 筋肉痛、関節痛、麻痺、感覚障害、運動障害など、
- 神経伝達異常による循環器系の症状など、
が報告されています。日本では幸いにも死亡者は出ていないようですが、海外においては数例報告されているようです。
シガテラ毒を持つ魚たち

それでは、シガテラ毒素は、いったいどんな生物に含まれているのか?シガテラ毒素を生産する有毒な渦鞭毛藻類は、熱帯地方のサンゴ礁に多く分布しています。そして、その有毒な渦鞭毛藻類を食べて育った小魚や、さらにその小魚を食べて育った大型魚が毒化します。ですが、どの魚が、どんなものを食べて大きくなってきたのかなど、まったく分かりません。そのため、日本の厚生労働省は、どんな魚がシガテラ毒素を含む可能性があるのかを示し、その魚を食べたり販売したりしないように、注意を呼びかけています。それが、以下に示す魚たちです。
- バラフエダイ
- バラハタ
- イシガキダイ
- アカマダラハタ
- オオカマス
- ドクウツボ
- ヒラマサ
などです。まだ他にもシガテラ毒を持つ魚はたくさんいるので、是非調べてみましょう!!
行政は甘い!
そして、「ちょっと待て! その魚食べた事あるぞ!」と言う方、いると思います。そうです。これが日本の行政の甘い所だと思うのですが、シガテラ毒素を持っているかもしれない魚ですが、普通に市場に並んでいる魚もいるのです。特に、刺身や寿司ネタで見かけることが多いヒラマサやブリは、イイ例ですね。こういう時に、知識の差はでます。ヒラマサやブリにシガテラ毒の食中毒の危険性があることを知っている人ならば、少なからず警戒し、食べた後に身体に不調があればすぐに医療機関に行くことができます。しかし、なんの知識もなければ、市場に出回っている魚ならば大丈夫と信じ込んで疑うことはなく、もし食中毒になっても、「今日食べた魚は少し古かったのかな~。」などと考え、その結果、処置が遅れることがあります。また、最近の例でもありますが、本来は流通しないはずの有毒魚が、誤って販売・購入されてしまい、消費者が食べてしまった後にその事実が判明することだってあるのです。このような誤りは、シガテラ毒を持つ魚だけでなく、他の海産性毒素であるテトロドトキシン毒素やパリトキシン毒素、貝毒、ノロウイルスによる食中毒、さらにはキノコ類や有毒植物によっても起こり得るでしょう。なので、消費者は各々で意識し、自衛することが大切なのです。
バラハタを水族館で見れる?

新潟市水族館マリンピア日本海や美ら海水族館などで見ることができます。生きたまま水揚げされた際に、新江ノ島水族館でも展示されたこともあります。
ペットにできる?

バラハタが幼魚の小さいうちから海水のアクアリウムを作り、ペットとしている方はいます。小さいうちはいいのですが、大きくなると体長が60cm以上になるため、かなり大きな水槽が必要となります。
まとめ

それでは最後に、シガテラ毒素についてまとめると、
- シガテラ毒素は熱帯の海産性毒素で、有毒渦鞭毛藻類によって作られる。
- その有毒渦鞭毛藻類の毒が魚に溜まる。
- シガテラ毒素による中毒は、消化器系、神経系、循環器系の症状を引き起こす。
- 厚生労働省が、シガテラ毒素を含む可能性がある魚を紹介し、注意を呼び掛けている。
- シガテラ毒素を持つ可能性がある魚でも、一般に市場に並ぶ事があるので、消費者が各自である程度知識を持ち、注意が必要である。
シガテラ毒素の原因となるプランクトンの多くが、南方のサンゴ礁に生息するため、これまではシガテラ毒による食中毒は沖縄県が中心でした。しかし、地球温暖化など、地球の環境変化の影響によるものなのか、その他の要因によるものなのかは不明ですが、四国、本州付近の海域でも、有毒プランクトンの発見が報告されるようになってきています。今回の件で話題となった魚たちの中で、市場に並ぶものは一部だけですが、釣りでは頻繁に見かけるものも多いので、釣り人は特に注意しましょう。そして、少しでも怪しいと感じたらその魚は食べないでおくのがベストでしょう。また、旅行や仕事で南方に行き、現地で魚料理を食べる時も、油断しないようにしましょう。